เข้าสู่ระบบ「そういえばさ」
「はい」
とりあえず、なし崩し的にあんな流れになってしまったので、落ち着くためにお茶を
もちろん、ハルちゃんにも振る舞う。
「さっきの回想で『お金もない』って言ってたけど、アオイグループの会長令嬢なら、なんかこう、ブラックカードとか持ってないの?」
すると彼女、ぷっと吹き出す。むう。発想がマンガ的で、悪うございましたね。
「普通のクレカならありますよ。でも、親に全部握られてて、速攻止められちゃいました」
「交通系ICカードとかも?」
「それは、うち、基本的にリムジン使うので……」
はあ~、セレブですこと。でも、そんな裕福な生活を蹴ってまで、実家に戻りたくないって、どういう事情だろう?
問いただすのも悪趣味な気がするけど、一応、住まわせる以上は訊く権利あるよね?
すでに、住まわせる方向に決めている自分が、怖いけど。
でも、彼女のわだかまりがわからないことには、説得しようもないしね、うん。
「ねえ、なんで家に戻りたくないの?」
「好きでもない男と、結婚させられるからです」
お茶に、視線を落とす彼女。なんとベタな。ほんとに、マンガから抜け出てきたような子だなー。
「わたし、同性愛者なんですよ。好きでもない男と無理やりくっつけられるとか、耐え難くて」
お茶を飲み飲み聞いていたら、思わずむせてしまった。
いや、今どき普通にアリなんでしょうけども。こうもあっさりカムアウトされると、ちょっと動揺する。
そんな彼女の、初めてを奪ったのか、私は……。思わず、頭を抱える。
私も、実はそっち側の人なのかなあ……? 正直、酔っ払った私は何しでかすかわからないから、断言しかねるけども。
「とりあえず、事情はわかった。その……私にも責任があるようだし、当面の間、面倒は見るよ。でも、居候を長い間置いておける余裕もないのよね」
「それなら、働きます! あ、でも、働いたことも、就職活動も、やったことなくて……。あの、色々教えてくれませんか!?」
ぎゅっと手を握られ、思わずドキッ! あう~……やっぱり私も、そっち側?
「まあ、いいや。私も、とりあえず今はあんまり、難しいこと考えたくないし。今日は互いに、ゆっくりしましょ」
二日酔い対策の、貝殻エキスのカプセルを飲む。失敗するのわかってて、つい呑んじゃうんだから、私も相当ダメ人間よねえ……。
「ハルちゃんの家って、どのあたりにあるの?」
「T町の……」
番地まで答える彼女。
「いやいや、そこまで教えなくていいから。よく、そこからF駅までこれたね? まさかとは思うけど、歩き?」
T町からF駅へは、市内といえども相当距離がある。
「タクシーで。そのあと、クレカ止められちゃったんですけど。支払いだけは間に合って」
ほむ。
「じゃあ、飲まず食わずだったんだ」
「はい。おねーさんに拾われて、助かりました」
満面の笑顔を浮かべる彼女。無鉄砲な家出娘だなあ。
しかし、どうしたもんかな。なし崩しに、うちで預かることになっちゃったけど、なんか、これ以上立ち入ったこと訊くのも悪いしなあ。
「とりあえず、テレビの続きでも見ようか」
適当にチャンネルを回していくと、料理番組が。
「へー。サンマねえ……。そういえば、今年はまだ食べてないなあ」
「じゃあ、作りましょうか?」
さらっと宣言するハルちゃん。
「材料さえ、用意していただければ、焼くなり煮るなり、一通りは」
ほえー。ウデはさっきのスパゲッティーで証明済みだしなあ。
「じゃあ、これ見終わったら買ってくるかー。ハルちゃん、お酒呑める?」
「はい。成人してからは、食卓にワインも上がるようになりまして」
「よし! 歓迎会ってことで呑も!」
ああ、ダメ人間。
番組も終わったので、出支度。
「ほんとは、連れていきたいけど、ニュースになったばかりだからねえ。お留守番しててちょーだい」
「はい。スマホの充電器、お借りしていいですか?」
「ご随意に」
預金通帳を入れた、タンス棚の鍵をチェック。よし!
「信用しないわけじゃないけど、こういうのはしっかりさせてね」
鍵をバッグにしまいながら、申し訳ない感じで言う。
「当然の用心だと思います。気にしないでください」
うーん、いい子だなー。文字通り、育ちがいいんだな。
「サンマ以外に、食べたいものある?」
「いえ、居候の身ですから、特には」
ふむう。ほんと謙虚だね。最初、ドタバタしてたのがウソみたい。
「じゃ、いってきまーす。あ、インタホン鳴っても出ちゃだめよ」
渦中の人物だものね。
じゃ、おっかいもの~っと。
◆ ◆ ◆ なんだろうな。ただの買い出しなのに、ワクワクしてしまう。思えば、一人暮らしを始めてから、もう九年になるのか。
一人暮らしは気楽は気楽だけど、寂しいものがある。ときどき、ふと故郷にUターンしたくなることがあって。
でも、今日はハルちゃんがいる。
なんというか、最初はドタバタしてたけど、今、彼女とはなんとなく、人間的な相性の良さを感じるんだ。話してみれば、すごくいい子だったし。
えーと、サンマに……ワインは合わないよね。日本酒でいこう。彼女、日本酒いける口かな?
あと、大根とー……。それと、ちょっとした乾き物も。
こんな調子で、二人分の買い物をかごに入れていく。
今朝の剣呑な感じはどこへやら。るんるんと自転車漕ぎ漕ぎ帰宅すると、見知らぬ男が二人、我が家の前に立っていた。なんか、嫌な予感がする……。
「あの、入れないので、どいていただけますか?」
問いかけると、中年男性が一礼して、「こちらに、うちのバカ娘が押しかけていると伺いました」と。
あっ! と声を出す。葵吾文その人じゃない! ニュースで見たことある!
「あ、これはどうも。ええと……」
もう一人の男性に目をやる。
「ワタクシ、こういうものです」
越野綜合法律事務所・所長 越野銀一と書かれた名刺を受け取る。ひえ~、何か大事に……。刑事さんが来たとき以上の緊張が走る。
同時に、私はちょっと、カチンと来ていた。自分の娘を、初対面の人間の前でバカ呼ばわりした。気持ちはわからなくはないけど、我が子を罵る親に、ろくなのはいないというのが私の持論だ。
とりあえず、どうしたもんか。
あまり良い結果になるとも思えないけど、門前払いというのも、またどうかと思う。
「……お入りください」
とりあえず、お二方を中に入れることにしました。
ひゅうと、秋風が紅葉の葉を運びながら、私の頬をなでていく。 思えば、ハルちゃんと出会ってから、ちょうど一年か。「どーしたんです、おねーさん?」 恋人つなぎで、庭を一緒に散歩していた彼女が、声をかけてくる。 庭では、紅葉の葉が紅に染まっていた。「ん? 出会ってから、ちょうど一年だなあと思って」「もう、そんなになるんですね。大人になると、時間の過ぎ方があっという間になるっていいますけど、ほんとなんですね」 ハルちゃんも、目を細めて、柔らかくなった秋の日差しを見上げる。「あのときは、びっくりしたよ。朝起きたら、私もハルちゃんもネイキッドで寝てるんだもん」「あはは。本当に、お姉さんのワザ、ステキでした」「もーう、そういうこと言わないの。恥ずかしいじゃない」 口をとがらせて拗ねると、彼女が一層、愉快そうに笑う。「会長令嬢と知った時は、愕然としたっけなあ。まるで、漫画のヒロインかと思ったよ」「漫画のヒロインって、そうなんです?」「ものによってはね。それにしても、警察だの吾文さんだの押しかけてきた時は焦ったなあ」 愛しの彼女に、そっと肩を寄せる。「あの頃は、まだお父様と仲が険悪でしたからね」 彼女も、肩を寄せてきた。「お父様が倒れられて、幸か不幸か、父娘仲が改善しましたけど。……いや、幸と言っちゃいけないですね。でも、お父様、ずいぶん丸くなりました」「そうだね」 私も、ずいぶんな言われようをしたっけ。「そのしばらく前だよね。ミドリさんとハルちゃんが、ばったり再会したのは」「はい。あのときは、心臓が爆発しそうでした。二度と会えないと思っていたミドリさんが、眼の前にいるんですもん」 あれは本当に、偶然に偶然が重なった。たまたま映画を見に行って、たまたまピアノを弾いて、たまたまミドリさんが聴いていて。「おねーさんが必死にミドリさんを止めてくれて、助かりました。おねーさんがいなかったら、ミドリさんは私の手から、するりとすり抜けてしまうところでした」「詩的な表現だね」 詩といえば、ハルちゃんとユキさんは、デビューに向けて、仕事と両立しながら、必死に頑張ってる。すごいな。「ありがとうございます。でも、まさか公式二股とか、おねーさんから言い出すとは思いませんでしたよ。さすがに、びっくりしました」「あはは
結果発表をまんじりともせず待つ日々。公式HPによると、審査が長引いているらしい。 仕事を終え、バスの中でツイスターを見ると、ついに結果発表が! 急いで公式HPに飛ぶと……最優秀賞……じゃない、優秀賞……でもない。じりじりと不安な気持ちで、画面を下にスクロールしていく。 あったあああああああ!! 審査員特別賞! たしか、募集時にはなかった賞のはず。賞金なし。プロデューサーがつき、デビューに向けてサポートします……だって。うーん、急遽設けられた末席かあ。 ちょっと残念な気持ちで帰宅すると、ハルちゃんとミドリさんが、笑顔で出迎えてくれました。「ちょっと惜しい結果だったね。もっと上、狙えると思ってたんだけど。でも、入賞は入賞だ!」 励ますつもりでそう言うと、「何仰るんです! 大金星ですよ!」と、聞き覚えのある声が。 ハルちゃんのスマホからだ。「だそうですよ、おねーさん!」 笑顔で画面を向けてくるので見てみると、興奮気味なユキさんが映っていた。「あのですね。賞レースの世界で、初めての投稿作が入賞なんて、自分で言うのもなんですけど、天才の所業ですよ!?」「そうなんですか?」「はい! 私も、小説賞で一次選考での落選を、何度繰り返したかわかりません。……初めての受賞が、小説ではなく歌っていうのがあれですけど、万々歳です!!」 へー。「これをお父様に伝えたら、今度こそ、心の底から喜んでくれてですね! 今度の日曜、真の祝賀会をしようって話になりました!」「おおー! おめでとう!!」 大学を続けるかどうか悩んでいた、ハルちゃん。思い切って音楽の道に進んだわけだけど、ピアノ講師以外の道も見えてきたわけだ。「いやー、印税でウハウハになったりするかなー?」 なんて青写真に思いを馳せていると、「いや、それは夢見すぎですね」と、一転して冷静なユキさん。「少なくとも小説だと、受賞後デビューしても、働きながら、副業として執筆活動する人がほとんどです」「意外と、渋い世界なんですね」「ですよ。売れっ子なんて、万に一人……いや、それ以下の選ばれし人なんですよ。音楽も、同じだと思いますよ」 ほんと、厳しい世界なのねえ。でも、地方公務員も、世間様が思うほど恵まれてないから、そんなもんか。「まあ、何にしても祝賀会楽しみですね!」 ウ
「ただいま戻りました~」 今日も、お仕事頑張ったー! というわけでお屋敷に戻ると、ハルちゃんとばったり出くわした……というか、待ち構えていて、「おねーさん!」と、子犬のように抱きついてきました。 季節も春になり、福祉課自体は変わらないけど、別地区の担当になりました。こうしないと、不正する職員、悲しいけどたまにいるからね。実際、昔、岡山で問題になったらしい。「危ない、危ない! どーしたの、そのテンション?」 危うく倒れ込みそうになり、彼女を制する。「すみません。それでですね! 完成したんですよ、歌が!」 そういえば、そろそろ締切だっけ。「おー、そりゃめでたいね! ハルちゃん、頑張った!」 頭をなでてよしよしすると、「えへへ~」ととろけるお嬢様。かわいい。「吾文さんも、さぞ喜んでくれたでしょう?」「それがですね、『まだ入賞したわけではない。気を引き締めなさい』って塩対応で、お母様に、『こういうときは、素直に祝ってあげてくださいな』って、たしなめられてました」 はは。本当に、不器用な父親だなあ。大病して以降、ずいぶんカドが取れたんだけどね。「でもとりあえず、祝賀会を開こうって言ってくれて、お屋敷のみんなでパーティーすることになりました!」「おー、そりゃ楽しみだねえ!」 吾文さんも、リハビリのかいあって、杖が必要だけど、少しは歩けるようになっている。「はい! もちろん、ユキさんも招かれてますよ」「いつやるの? さすがに今日じゃないよね?」「今度の日曜です!」「りょーかーい! ところでお風呂入りたいな」「じゃあ、一緒に大浴場行きましょうよ!」 目をキラキラさせる彼女。「ミドリさんは、まだお仕事?」「はい」「じゃあ、お風呂はハルちゃんと二人っきりかあ~」 ひさびさかな、これも。 というわけで、楽しく流しっこするのでした。 お腹も空いてるし、さすがにリスキーなので、それ以上はしなかったけどね! ◆ ◆ ◆「今日は、不肖の娘、ハルが……」「あなた、ハレの場で、娘を不肖などというものではないですよ」「こほん。我が娘ハルが、賞向けの歌をご友人と完成させた記念に、気が早いが、祝賀会を開かせてもらった。日頃の奉仕に報いる意味もあるので、今日は大いに呑み、食べ、楽しんでほしい」 奥様に、最近ツッコミを入れられがちな吾文さんの挨拶
どうも、最近オフは、やることがなくていけない。お掃除もお洗濯も、メイドさんたちがやってくれるしなあ。かといって、またメイドイン私……逆か。ま、それはちょっと辛いと理解できた。 というわけで、競馬中継など見ていたわけだけど、スターランサーが有馬で怪我し、療養中になってしまった。予後不良とかじゃなくてまだよかったけど、寂しいな。 もう一頭の推し、マリアージュベーゼも、パッとしない戦績が続いている。さっきも、六着に終わったところだ。高松宮では、ビシッと決めてほしいけどなー。 なんとも、気が沈みますなあ。 なんか、今日は視聴気分じゃないや。そういや、今日ミドリさんオフだっけ。たまには、ハルちゃん抜きでミドリさんと絡んでみようかな?「ス~マ~ホ~!」 某猫型ロボットの物真似をしながら、コール。「はい? どうされました?」「いやー、手持ち無沙汰だし、メイドさんのお手伝いは、私には無理だと悟ったんで、たまにはミドリさんと、なにかしようかと」 首筋をもみながら、提案する。テレビばっか見てたら、首凝っちゃったよ。「そうですね……読書も、目が疲れましたので、小休止中でして。構いませんよ」「じゃあ、とりあえず、私の部屋で」「かしこまりました」 冷蔵庫から炭酸水を取り出して飲んでると、ノックとともに「私です」と、ミドリさんの声が。「いらっしゃ~い。入って、入って!」「お邪魔します」 彼女が入ってくる。「さーて、ミドリさん。呑みましょうか!」「ええ!? 唐突ですね? というか、屋敷のお酒を勝手に開けるわけには……」 高級酒ばかりですもんね。「ノンノン。私の私物~。自分用に、こつこつ買い溜めてるんですよ」 と、クラフトビールを二缶出す。「おつまみも、ありますよ~。いきましょうよ!」 乾き物を、色々取り出す。「そうですね、久しぶりにこういうのも、悪くないかもしれません。お嬢様がいらっしゃらないのが、残念ですが」「一時間ぐらい前、ピアノ室覗いてみたら、ユキさんとかなりガチな話してましたよ。邪魔しないほうが、いいかもしれませんね」「左様ですね。では、二人で呑みましょう」 「そうこなくっちゃ!」と、ビールグラスを出し、慣れた手付きで注ぐ。美味しさを引き立てる白い泡が、シュワッと膨らむ。「乾杯!」 グラスを打ち鳴らし、ごくごく。
こんこん、がちゃ。ハルちゃんの部屋……。いない。 ピアノ室かな? てくてく……こんこん、がちゃ。ビンゴ!「ハールーちゃん。競馬見ーましょ」「すみません、おねーさん。今、取り込み中で」 スマホからも、ユキさんの声が聞こえる。作曲中か……。 ハルちゃん、曲自体もあれからブラッシュアップするとのことで、ピアノ室にこもることが多くなっている。 ミドリさんは仕事中でしょ。だからって、休日まで同僚とつるみたくないしなあ。 私にも、楽才なり詩才なりあったらな。ハルちゃんとユキさんの間に混じれるのに。 ただ食客やってるのもあれだし、今日は皆さんのお手伝いでもしますか!「ミドリさーん」 とりあえず、取っ掛かりとしてミドリさんを捕まえ、呼び止める。「はい、なんでしょうか」「私、暇を持て余してまして。で、ただ食客やってるのもアレだし、お手伝いしようかなあ、なんて」「ありがたいお話ですが、私の一存では決めかねますので……メイド長に、話を取り付けましょう」 というわけで、メイドさんたちが、わらわらとたむろしてお掃除している、エントランスへ。「……というわけなのですが」「なるほど、ありがたいことです。でもその格好では……余ってるメイド服、召されてみますか?」 おお! リアルメイド服! まさか袖を通す機会が訪れるとは。「はい、ぜひ!」 そんなわけで、更衣室へ。おお、これがメイド服! 何かワクワクするな!「おまたせしました」 着替えて、しゃらららん。「ではさっそく、拭き掃除をお願いします」 と、水入りバケツと雑巾をメイド長から手渡されました。 おっほう! さっすがメイド長! 着替えたてホヤホヤのボランティアにも、容赦なしですね! 彼女が、葵家の秩序を守っているのだなあ。「あの、メイド長さん」「長野と呼んでください」 おさの、おさの……あれ?「ひょっとして、シェフ長の……」「はい、彼は夫です。それで、ご質問は?」「あ、はい。ええと、どのあたりを中心に拭けばいいですか?」 メイドさんたちがめいめい動いているので、文字通りどこまでクリアされてるか、わからないのだ。「でしたら……」 と、結構な広範囲を指定される。うっひゃ~! でも、自分で言いだしたことだもんね! やるぞー! ◆ ◆ ◆「みなさん、休憩にしま
「お父様、わたし、作曲の賞に応募してみようと思うんです」「おお、そうかそうか。お前も頑張ってるのだな」 万年筆を右手に持ち、自室でハルちゃんの報告を聞く吾文さん。リハビリのため、文字を書く練習をしていたらしい。何十字もの「あ」や「い」で埋め尽くされた紙が見える。 かつての彼はそこにはおらず、娘同様努力する、人当たりのいい、おじ様がそこにいた。「それで、お父様にも試聴していただきたくて……。音楽、かけてもいいでしょうか?」「いいとも。聞かせてくれ」 ハルちゃんが、ファイルを再生しながらスマホの音量を調節する。「……いい曲だ。これだけで応募できるんじゃないか?」「いえ、作詞も必要で……。わたし、作詞はからっきしなので、ミドリさんのご友人のご助力を、いただいているんです」「ほお……」 筆を止めず、同時に話を聞くという器用なことをしながら、感心する彼。「そういえば、奥様のお姿が見えませんね」 いつもなら麗さんのいる席で主人の世話をしている辻さんを見て、ミドリさんが素朴な疑問を口にする。「今日は、一日羽根を伸ばしてもらっている。オレの世話で、ずっと苦労させっぱなしだったからな」 吾文さん、ほんとに丸くなって……。「そういえば、ハルも紅さんも、皆に混じってまかないを作ってるんだったかな?」「はい。わたし……こういう言い方は失礼ですけど、アキさんと共同生活して、世間様の暮らしを体験しました。それで、わたしもぬるま湯に浸かっていてはいけないと思うようになったんです。もっとも、衣と住に関しては、贅沢させていただいてますけども……」 とはいえハルちゃん、オフの日は率先してメイドさんたちの仕事を手伝っている、パワフルさんだ。「ならば、食も遠慮せず、食べなさい。その、夏野には他の使用人の手前、それはさせられないが」 つ、と、頷いて肯定するミドリさん。「それが嫌なんです。私にとってミドリさんの手料理は……こういう言い方よくないですけど、母の味ですし、彼女と同じものを食べたいんです」「ふむ……」 吾文さん、筆を一旦置き、左手で顎を撫でながら、思案する。「なら、慰労会を開こう。屋敷の者、全員参加のパーティーだ。そこでなら、夏野も遠慮は必要あるまい」「よろしいのですか!?」 びっくりミドリさん。「いいともいいとも。考えてみれば、がむ







